Kitです。

大好きな映画の一つに”Death Proof”という、2007年のクエンティン・タランティーノ監督作品がある。元々は”Grindhouse”というオムニバス映画の一本。(もう一本は”Planet Terror”というホラー作品) 「タランティーノ作品で何が好き?」と聞かれれば、食い気味にそのタイトルを即答するくらいに好きなのだ。

私には「唯一」と言っていい心から信頼できる映画通の友人がいる。当時その彼から「今度Grindhouseって映画があるよ」といつものように誘いがあり、公開当日二人で劇場へ足を運んだ。 B級作品臭の半端ない作品だったためか(あえてそういう狙いの作品なのだが)劇場内はちょっとウケるくらいにスカスカ。一本目のロバート・ロドリゲス監督のハチャメチャアクションホラー”Planet Terror”が終わり、「まあ普通に面白かった」と、続けていくつかのフェイク映画CMが流れる。 実際にはない映画なのだが、「この作品観てみたいな~」と思わせるほどクオリティの高い魅力ある映像ばかりだった。(後にその中の一本、ダニー・トレホ主演の”Machete”が本当に映画化されるとは夢にも思わなかった)

そして後半、静かに始まるDeath Proof。
主演のカート・ラッセルは”ニューヨーク1997”、”遊星からの物体X”、”  ゴーストハンターズ”、”エスケープフロムLA”で知らない人はいないであろう80年台を代表するアクション俳優の一人で、最近では”ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー2”のエゴ役で若い世代にも知られたのではないだろうか。
超カッコいいわけでもなくどこか三枚目風でお茶目な役も演じてきたその彼が、本作では冷酷でド変態の殺人鬼を演じているのである。 その”堕ちた”感がたまらなくいいのだ。あのつぶらすぎる瞳と可愛い笑顔がもう「ええ、私がド変態殺人鬼です」と言っているくらいにマッチしていて、退屈なはずの酒場のシーンも彼がいるだけで何かやってくれそうとゾクゾクするのだ。で、やってくれます変態的殺人を。 子供が観れば間違いなくトラウマになるくらい酷いものです。 私も「そこまで撮るんかーい!」と心の中で言ったくらい。しかしその後は打って変わって「タランティーノは客を寝かせようとしているのか?」と思えるほどに話に起伏のない退屈シーンが延々続く。

ここから先、結局何が素晴らしい作品なのかは実際に観てもらえれば分かるのだが、残りの畳みかける勢いと、何より「退屈でしょ?じゃあ楽しませてあげる」と言わんばかりの怒涛の反撃に、観客は度肝を抜かされることになるのである。もう絶叫マシンに乗っているかのようなノリノリの展開とBGMで巻く巻く。 観客総立ちになってもおかしくない興奮連続の展開で、笑い泣きしながら物語はそのままハッピーエンドの結末を迎える。 喜怒哀楽の感情が全て振り切った1時間53分。 観終わった後の感想は「何てもの観せてくれたんだ、他の作品が観れなくなるじゃないか!」と、実際その後それ以上に楽しめる作品にしばらく出会えなかったのは事実。付け加えて「出来ればこの映画を現地アメリカで、絶叫と拍手喝さいの中で観たかった」と思えるほどに自分の映画史に残る名作中の名作なのである。

観客が何を求め、何をすれば失望し、それに何を加えれば逆に喜んでもらえるか、人間の心理を知り尽くした鬼才タランティーノ監督の真骨頂と呼べる作品がこの”Death Proof”ではないだろうか。エンタメを一口に知ることはできないが、この映画は確実に多くのヒントを持っていると思う。 是非買って観てください!

今日は映画”Death Proof”についてでした。
Kitでした。